2025年5月23日金曜日

「適正者」  星GP一 

 

この国では、職業がすべて政府によって決められるようになっていた。

かつては自由に職を選べる時代もあったというが、今ではそれは「混乱の時代」として歴史の教科書に載っている。誰もが自分に向かない職に就いては疲弊し、転職を繰り返し、社会全体の効率が極端に悪かったという。

「適性省」ができてからはすべてが変わった。

人は生まれてすぐに様々な遺伝子、反射神経、感情の振れ幅、微細な身体反応までも測られ、成長とともにそのデータはAIに蓄積されていく。そして18歳になると「適性結果」が出て、一生の職業が決まる。

それは誰にも文句を言えない、絶対的な決定だ。

適性結果の通知を前に、青年ハヤセ・トオルは不安で仕方がなかった。

「まあ、大丈夫さ。どうせ俺は『小説家』か『思想家』になるに決まってるよ」

親友のカナザワが言った。「お前の読書量、ちょっと異常だもんな。AIにだってわかるさ」

「お前は?」

「俺? 格闘技好きだからね。多分、民間警備団かな。あるいはボディーガード」

ふたりは笑った。

この年齢の若者たちは誰しも、自分の未来に少しばかりの自信と希望を持っている。選択肢はないけれど、AIが選ぶなら間違いはない。そう教えられて育ったからだ。

だが、通知の朝は、静かに来た。

トオルの適性は、「コンビニ夜間補充員」と出た。

「え?」

目を疑ったが、確かにそう書いてある。「夜間に働くことにおいてストレス反応が少なく、単純作業に対する飽きがきわめて遅い」「AI会話にも適度に対応可能」「一人時間を苦にせず、音楽で脳が活性化する」など、無数の理由が科学的に列挙されていた。

本人の希望職業欄は空白のままだ。希望など、あくまで参考にしかされない。

コンビニの夜は静かだった。

AI冷蔵庫の温度をチェックし、配送されたおにぎりや菓子パンを並べる。すべて決められた手順通りに。たまにくる客の対応も、AIレジが主導する。

「いらっしゃいませ。夜は冷えますね」

棒読みの挨拶をする。客は黙ってうなずき、エナジードリンクを買って出ていった。

思ったより悪くない、とトオルは思った。たしかに飽きは来ない。小説を書く時間はないが、イヤホンでクラシック音楽を聴きながら陳列していると、心が安定する。理屈では説明できないが、奇妙な安堵感があった。

だが、数ヶ月が過ぎたある夜、店のバックヤードで古い雑誌が見つかった。

「職業選択の自由を取り戻せ!」

という見出しが大きく踊っていた。日付は30年前。

トオルはそれをこっそりポケットに入れ、自宅で読んだ。かつて、人は自分で職業を決めることができた。夢を見て、挫折して、また別の道を模索して——。

「そんな非効率なことを……」と最初は思ったが、なぜかその記事が心に残った。

「適性とは、本当に正しいのか?」

AIに決められた道が「快適」だというのは事実だ。しかし、それは「自分の人生」と言えるのだろうか?

ある晩、客がやってきた。60代くらいの男で、どこか妙に人懐っこい笑みを浮かべている。

「きみ、夜勤で働いてるのか。えらいねぇ」

「……適性で決まったので」

「ほう。今どきの若者は、ずいぶん素直なんだな」

男は缶コーヒーを手に取りながら続けた。

「私はね、昔、適性結果を拒否したんだよ」

「えっ?」

「芸術家になる適性だった。でも、いやでね。わたしは数学者になりたかった。向いてないって言われたが、それでもやった」

「それで……?」

「貧乏したさ。でも、自分の人生だった。いまでは、自分の好きなことをできたことを誇りに思ってる」

トオルは、その夜、初めて補充作業を止めた。手が止まり、心が動いた。

翌朝、トオルは適性省の分室に行った。

「職業変更はできません」と、受付の女性型ロボットが言った。

「せめて、なぜ自分がこの職に向いているのか、AI本人に会って聞きたい」

彼はそう訴えた。

数時間後、地下施設に案内された。そこには無機質な巨大球体があり、声が響いた。

《あなたは、夜間補充員に最も向いています。それ以上でも以下でもありません》

「なぜ、小説家にしてくれなかったんですか?」

《あなたの創作は平均より劣ります。評価データを参照しますか?》

彼はうなずいた。

そこには、かつて匿名で投稿した作品がすべて分析されていた。「感情の起伏が乏しい」「展開が平板」「思想に独創性がない」など、赤いマークがびっしり並んでいた。

「それでも……僕は、小説を書きたかったんです」

しばらく沈黙があった。

やがて、AIは言った。

《では、夜間補充員のまま、書きなさい。配属を変えずに、自費出版を許可します。趣味の範囲であれば、あなたの自由です》

トオルは驚いた。

「……そんな道も、あるんですね」

《人生は、一つとは限りません》

それから十年後。

町の小さな書店に、一冊の本が平積みされていた。

『適性という名の檻』

著者:夜間補充員ハヤセ・トオル

帯にはこう書かれていた。

「AIが与えるものは、幸福か、牢獄か?」

本は静かなブームを呼び、各地のコンビニに特別販売されることになった。

皮肉な話だが、その売り場を整えていたのも、夜勤のトオルだった。

その笑顔には、少しだけ誇らしげな影があった。



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Q 星新一のような文体と内容で、3000字程度のSFショートショートを書いてください。少し未来の様子がわかるような、それでいてウイットや皮肉に富んだセンスのよいものをお願いします。


ChatGPTによる生成


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