「自動感謝マシン」 星Gro一

 

1

ある日、街に新しい機械が現れた。名前は「自動感謝マシン」。高さは人間の背丈ほどで、銀色のボディには小さなディスプレイと、硬貨を入れるスロットがついている。街角や駅、ショッピングモールの片隅に、まるで昔の公衆電話のようにならんでいた。

マシンの使い方は簡単だった。硬貨を入れると、ディスプレイに「感謝の対象を入力してください」と表示される。キーボードで名前や事柄を打ち込むと、マシンが「感謝の言葉」を生成し、スピーカーから流れる。声は選べる。優しい女性の声、渋い男性の声、子供の声、果ては宇宙人のような電子音まで。オプションで、感謝の言葉を印刷したカードも出てくる。

「これは便利だ」と、街の人々は喜んだ。なにしろ、現代人は忙しい。感謝の気持ちを伝えるのは大事だとわかっていても、わざわざ手紙を書いたり、直接言葉にするのは面倒だ。マシンなら一瞬で済む。しかも、硬貨一枚で済むのだから安いものだ。

---

2

佐藤さんは、街の小さな会社で働くサラリーマンだった。毎日、朝から晩まで書類と格闘し、上司の機嫌をうかがい、部下のミスをフォローする。家に帰れば、妻の不満を聞き、子供の宿題を手伝う。そんな佐藤さんにとって、自動感謝マシンは救世主だった。

ある朝、佐藤さんは駅前のマシンに立ち寄った。硬貨を入れ、キーボードに「妻」と打ち込む。ディスプレイに「感謝の理由」を求められたので、「いつも美味しい朝食をありがとう」と入力した。マシンは一瞬考え、優しい女性の声でこう言った。

「親愛なる妻へ。毎朝の美味しい朝食、心から感謝しています。あなたの愛情が、僕の一日を明るくしてくれます。」

佐藤さんは満足して頷いた。カードも印刷し、帰宅後に妻の枕元にそっと置いた。妻は翌朝、カードを読んで微笑んだ。「あなた、最近ロマンチックね」と言う。佐藤さんは内心、「マシン、グッジョブ！」と思った。

---

3

マシンの人気は爆発的に広がった。会社では上司が部下に「君の残業、感謝してるよ」とマシンで伝え、学校では生徒が教師に「授業、楽しかったです」とカードを渡す。友人間でも「誕生日パーティー、最高だった」とマシンの言葉を贈り合った。誰もが感謝の言葉を惜しみなく交わし、街は一見、温かい空気に包まれた。

だが、佐藤さんは少し違和感を覚え始めた。ある日、部下がマシンのカードを渡してきた。「佐藤課長、いつもフォローしてくれてありがとう」と書かれていた。字面は立派だが、部下の目はどこか冷たく、カードを渡す手つきも事務的だった。佐藤さんは思った。「これ、本当にこいつの気持ちか？」

妻も同じだった。ある晩、佐藤さんが帰宅すると、妻がマシンのカードを差し出した。「あなた、いつも家族のために働いてくれてありがとう」とある。だが、妻はカードを渡した後、すぐにスマホに戻り、動画を見始めた。佐藤さんはカードを手に、妙な空虚感を覚えた。

---

4

自動感謝マシンを開発したのは、街の外れにある小さなベンチャー企業「ハートテック社」だった。社長は若い技術者で、インタビューでこう語った。「現代人は忙しすぎて、感謝を伝える余裕がありません。私たちのマシンは、その隙間を埋めるんです。心のこもった言葉を、効率的に届けます。」

しかし、街では奇妙な現象が起き始めた。感謝の言葉が溢れる一方で、人々の会話が減った。直接「ありがとう」と言う人がいなくなり、誰もがマシンに頼るようになった。レストランでは、ウェイターが客にカードを渡し、客もウェイターにカードを返す。まるで感謝のキャッチボールだが、誰も目を合わせない。

佐藤さんも、だんだんマシンに頼るのが嫌になってきた。ある日、妻に直接「いつもありがとう」と言ってみた。妻は驚いた顔で、「え、急にどうしたの？」と笑った。その笑顔は、マシンのカードよりもずっと温かかった。

---

5

ある夜、佐藤さんはハートテック社の社長にメールを送った。「マシンは便利だが、人の心を冷たくしている。改良できないか？」と。返信はすぐに来た。「ご意見ありがとうございます。次期モデルでは、感謝の『感情』をAIが学習し、より本物の声で伝えます。」

佐藤さんは首を振った。「本物の声」を機械が作れるわけがない。結局、感謝とは、面倒で、ぎこちなくて、照れくさいからこそ価値があるのだ。マシンに任せれば、確かに効率的だが、どこか空っぽだ。

翌日、佐藤さんはマシンの前を通り過ぎ、妻に花を買って帰った。「これ、感謝の気持ち」と言うと、妻は目を丸くして笑った。「あなた、ほんと急にどうしたのよ！」その夜、家族の食卓は久しぶりに笑顔で満たされた。

---

6

自動感謝マシンは、その後も街に増え続けた。新型モデルは、確かに「感情」を模倣する技術が進化し、まるで人間のような声で感謝を伝えた。人々はますますマシンに頼り、直接の会話は減っていった。街は感謝の言葉で溢れ、誰もが笑顔を浮かべていたが、どこか機械的な笑顔だった。

ある日、佐藤さんは駅前のマシンを見ながら呟いた。「感謝って、こんな簡単なものじゃなかったはずだ。」彼は硬貨を握りつぶし、マシンに背を向けた。その背中は、どこか誇らしげだった。

解説

この物語は、星新一のショートショートらしい簡潔でユーモラスな文体を意識し、近未来の技術がもたらす皮肉な状況を描きました。自動感謝マシンは、効率化を追求する現代社会の象徴として登場し、感謝という人間的な感情を機械にアウトソーシングすることで生じる空虚感をテーマにしています。星新一らしいウィットと皮肉を込めつつ、読者に「本物の感謝とは何か」を考えさせる余韻を残しました。少し未来の技術が日常に溶け込む様子を描きつつ、現代社会への軽い批判も込めています。

＝＝＝＝＝＝＝＝

Q　星新一のような文体と内容で、3000字程度のSFショートショートを書いてください。少し未来の様子がわかるような、それでいてウイットや皮肉に富んだセンスのよいものをお願いします。

Grokによる生成