男はその日、深夜の書斎で缶ビールを片手に、ぼんやりとモニターを眺めていた。
画面には「あなたの契約は間もなく終了します」とだけ表示されている。
「……また詐欺か」
思わず独りごちたものの、送り主のメールアドレスを確認して男は目を細めた。
from:Lucifer@hellcorp.jp
「ルシファー……? なんの冗談だ?」
笑いながらメールを削除しようとしたが、マウスが動かない。モニターがフッと暗くなり、代わりに赤い文字が浮かび上がった。
ご契約者さまへ。地獄株式会社より通知いたします。契約の更新時期がまいりました。詳しくは、以下の担当悪魔がお伺いします。
その瞬間、部屋の空気が一変した。蛍光灯がパチパチと音を立てて消え、窓もない部屋に、不自然な影が差し込む。机の上にいつのまにか黒煙が立ち昇り、やがてひとりの男が姿を現した。
「こんばんは。悪魔のカスタマーサービス、第五課のサレムです」
「えっ、あんた……誰?」
「ですから、悪魔です。あなたが18のとき、ひとりで山奥に引きこもっていた際、"どうかこの人生をなんとかしてくれ"と願ったでしょう?」
「……あれって本当に?」
「ええ。契約はきちんと成立しました。あなたは望みどおりの大学に入り、そこそこの企業に就職し、無難な結婚をして、老後も安泰そうです」
男は絶句した。
「で、なんの契約だったんだ」
「魂の譲渡です。よくあるやつですね。期限が30年でして、そろそろ納品していただきたく」
「ちょっと待て! そ、そんな話、まるで覚えてないぞ!」
「記憶は代償として最初にいただいてますので。本人が疑問を抱かないよう、配慮しております」
「卑怯だ!」
「よく言われます。悪魔ですから」
サレムはにっこり笑った。歯が不自然に白く、完璧に整っている。
「だが、心配なさらず。地獄株式会社では昨今の顧客ニーズに応え、契約の延長制度を導入しました。とくに日本市場では、“先延ばし文化”が根強いので」
「……延長できるのか?」
「はい。延長料として、今度は“他人の魂”を一ついただきます。それも、あなたが心から信頼している人物のものを」
男は口をつぐんだ。頭の中に、妻と娘の顔が浮かんだ。
「誰でもいい。知人でも、SNSのフォロワーでも。魂の価値は相手の“あなたへの信頼度”で決まります。高ければ高いほど、延長期間も伸びますよ」
「そんなこと……できるわけないだろ」
「では、このまま契約満了ということで。地獄行きの手続きに入ります」
黒い帳簿のようなものを取り出すサレム。男は青ざめ、声を絞り出す。
「……まて。じゃあ、試しに“査定”だけしてみてくれ。対象は、会社の上司だ。最近、やたら俺にだけ優しいんだ。きっと裏がある」
「承知しました。では、査定開始――」
空中に数字が浮かぶ。信頼度:7.2。評価:まあまあ。延長可能期間:3年。
「うーん、3年か……」
「まれにありますよ。ペットを溺愛しているご老人なんか、犬の魂で10年稼いだりします」
「犬でもいいのかよ!」
「魂ですからね。ちなみに奥様だと――」
サレムが手を動かすと、新たな数字が現れた。信頼度:9.8。評価:純愛。延長可能期間:38年。
「……使えってことか?」
「提案するだけです。選ぶのはあなた」
男はしばらく黙っていたが、やがて決意したように口を開いた。
「やめとくよ。もう十分、生きた。別に特別な人生じゃなかったが……まあ、悪くもなかった」
「おやおや。そういう選択は少数派です。みなさん“あと少しだけ”が好きでして」
「地獄に行くって言ったって、どうせお前らが考えた“人間向けの罰ゲーム”だろ? そんなもん、どうせ大したことない」
「……なるほど。なかなか達観されている」
サレムは帳簿を閉じ、立ち上がった。
「実はこの数百年、こういう選択をする方が増えてましてね。我々の“地獄”も経営難なのです。人手不足で火も弱くなってきましたし、“三途の川”の水質問題も深刻で」
「で?」
「ですから、あなたのような方には――特別な提案を」
サレムは笑った。今度の笑みには、奇妙な優しさがあった。
「あなた、ウチで働いてみませんか?」
「……は?」
「人間の心をよく知ってる方を募集しているのです。悪魔にも働き方改革の波が来ておりまして。フレックス制、地獄のサブスク化、天使との共同事業も始まっています」
男はしばらく考えたのち、そっと空になった缶を置いた。
「まあ……いいか。どうせ行くなら、退屈しないほうがいいしな」
「ようこそ、地獄株式会社へ。あなたのデスクは冥界棟のB4、窓際です。コーヒーはセルフですので」
サレムが指を鳴らすと、書斎が一瞬で闇に包まれた。
そして――男の人生の、第二章が始まった。
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Q 星新一のような文体と内容で、3000字程度のSFショートショートを書いてください。悪魔などスピリチュアルな存在が登場するもので、ウイットや皮肉に富んだセンスのよいものをお願いします。
ChatGPTによる生成
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