最初の遭遇は、火曜日の朝だった。銀座の交差点で、ひときわ背の高い金属光沢の人物が、信号を無視して横断歩道を渡った。
警官が笛を吹いたが、その人物は無視して歩き続けた。通行人たちは、その異様な姿にスマートフォンを向け、次々に「宇宙人なう」と投稿した。彼らの中で、それを冗談ではなく本気で信じた者は、ほんの数人だった。
だが、翌日になると、それが本物の宇宙人であることが確認された。NASAが「最初の公式コンタクト」を発表し、日本政府も追認した。火星の彼方、第七惑星ルキシオンからの使者とのことだった。
宇宙人は、人間の言語を一切理解していなかった。いや、それどころか、意思疎通に必要な感情や論理の構造自体が、地球のものとまったく異なっていた。
最初に試されたのは音声による通訳装置だった。人類が長年研究してきたAI翻訳技術を駆使し、地球のすべての言語で応答を試みたが、宇宙人は「バルブク=ミャラ=スォン」としか答えず、その意味はわからなかった。
次に、ジェスチャー、絵、記号、匂い、光の点滅、果ては俳句まで――人類はあらゆる手段を尽くしてコミュニケーションを試みた。しかしそのたびに、宇宙人は同じ言葉を繰り返す。
「バルブク=ミャラ=スォン」
大統領は、失望を隠せなかった。
「これは無意味だ。我々は、話す相手を間違えたのかもしれん」
だがそのとき、日本のとあるベンチャー企業が立ち上がった。社名は「ユニバーサルトーク株式会社」。元はアニメの音声翻訳を自動生成する技術で一発当てた会社である。
代表の青年はこう言った。
「大統領閣下。言葉が通じない? そんなの、地球のカップルでも日常茶飯事ですよ」
会場の誰かがくすくすと笑った。青年は胸を張った。
「でも、問題は単なる翻訳技術じゃないんです。感情の回路を補完することなんですよ。うちの技術なら可能です」
彼の会社が開発したのは、「感情ベクトル変換型翻訳機」だった。相手の発する情報を、「理屈」ではなく「感覚」として捉える。人間で言えば、「なんとなく気まずい」とか「妙にイラつく」とか、そういう雰囲気を読み取り、そこに文脈を当てはめるのだ。
翻訳機は装着型だった。イヤホンのように耳に挿すと、神経系に微弱な信号を送ることで、直感的な意味を脳に送り込む。
政府は実験を許可した。翻訳機を装着した青年が、宇宙人の前に立つ。
宇宙人は、例によって「バルブク=ミャラ=スォン」と言った。
その瞬間、青年の表情が変わった。少し笑って、こう訳した。
「よう。なんかここ、クッソ暑くない?」
会場がざわついた。
「……もう一度言ってもらえるか?」
宇宙人が繰り返す。「バルブク=ミャラ=スォン」
翻訳機は、再び出力した。
「マジで、湿気で回路死にそう。おまえら、この星にどうやって住んでんの?」
翻訳機は成功したのだ。人類は歓喜した。
◆
それから数ヶ月間、翻訳機を通じて宇宙人との交流は急速に進んだ。
彼らは戦争もせず、欲望も持たず、所有の概念すらない種族だった。彼らにとって、物を持つことは「精神的に不安定になる症状」として理解されていた。
「おまえら、クルマって何? でっかい金属の棺桶をわざわざ買うの?」
彼らは地球の文化に興味津々だったが、笑うポイントはいつもズレていた。
「おまえら、恋愛ってどういうバグ? 故障の一種?」
会議室はいつも大爆笑だった。
しかしある日、彼らの代表者が唐突に言った。
「では、そろそろ帰る」
地球側は驚いた。
「もっと交流を。文化の交換を。技術の伝授を……!」
宇宙人は、翻訳機を通して静かに言った。
「もう十分だ。観察は終わった。たくさんの情報を得た」
「……観察?」
「そう。おまえらの進化過程を確認するための観察」
「では、我々を評価していたのか?」
「その通り。文明の成熟度をね」
「それで……その評価は?」
宇宙人は、ゆっくりと「バルブク=ミャラ=スォン」と呟いた。
翻訳機が出力する。
「全体的に、ツッコミ待ちの文明だった」
◆
宇宙人が去った後、翻訳機は博物館に展示された。
最先端の技術は封印された。というのも、翻訳機を使えば「本音」が直にわかってしまうからだ。
政治家の発言も、恋人の言葉も、商談のセリフも、すべて「ツッコミ待ち」として暴かれるようになった。
人々は言葉に意味があるふりをするのをやめ、ついには「通訳されない自由」を求めて、翻訳機の使用を法律で禁じるようになった。
地球は、もとの通じない世界に戻った。
人類は安堵した。
そして、誰もが心のどこかで、こう思っていた。
――ツッコまれないほうが、幸せだ、と。
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Q 星新一のような文体と内容で、3000字程度のSFショートショートを書いてください。宇宙人が登場するもので、地球人とのコミュニケーションに関わるようなものを希望します。ウイットや皮肉に富んだセンスのよいものをお願いします。
ChatGPTによる生成
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