「耳なし芳一の末裔」
一
或る法師の話である。
彼はその生涯を通じ、己の身に起こった奇怪な出来事を、いっこう語ろうとはしなかった。が、死の直前、ふとした拍子に、それをぽつりぽつりと語り出した。言うまでもなく、その時、傍らに居合わせた者は、筆と硯を取り出して、その言葉を逐一書き記した。これは、その覚え書きに基づいて記されたものである。
もっとも、この話の真偽は保証しかねる。が、芥川龍之介氏が『耳なし芳一』に想を得て「怪談風短編」を書いたとしたら、きっとこのようなものを書いたであろう──そう想像するのも、決して無意味ではあるまい。
二
拙僧は、豊後の国、臼杵の町外れにある無住の寺にて、修行しておりました。
寺と申しても、既に瓦は落ち、柱は蟻に食われ、夜ともなれば蝙蝠が天井を舞うような荒れ寺でございました。が、それでも草庵の一つもあれば、念仏は唱えられる。拙僧のような流浪の身には、むしろ都合の良い場所でございました。
その寺には、ある古い伝えがございました。曰く、「この寺には、平家の亡霊が住みついている」と。もっとも、近隣の者に問うても、誰もその詳細は知りませなんだ。ただ、幾人かの古老が、「夜中に琵琶の音が聞こえることがある」と、そんなことを申しておりました。
拙僧は、元より幽霊や亡霊というものを信じておりませなんだ。そもそも仏法においては、執着こそが苦の根源。成仏できぬ魂など、無明の迷いにすぎぬと考えておりました。
──が、それは浅はかなる慢心でございました。
三
それは、ある蒸し暑い夏の夜のことでございました。
いつものように、灯明を落とし、経を唱え終え、草の上に横たわってまどろんでおりますと、どこからともなく、かすかな琵琶の音が聞こえて参りました。
「ほう……これが、噂に聞く琵琶か」
拙僧は半ば興味本位に、音のする方へと耳を澄ませました。音は、まるで深い海の底から湧き上がるような、低く、湿った響きでございました。そして、それに続く声──女の声でございます。
「壇ノ浦にてこそ……なむあみだぶ……」
まさしく、それは『平家物語』の一節、芳一が奏でたとされるくだりでございました。
拙僧の背筋を、冷たいものが這いました。されど、恐怖心よりも、奇妙な魅惑に囚われたのは事実でございます。
拙僧は、琵琶の音に導かれるまま、寺の裏手にある小さな池のほとりへと足を運びました。そこには、月明かりに照らされて、白い着物をまとった女が、背を向けて座っておりました。
「もし……どなたじゃなさる?」
拙僧の問いに、女は振り向きもせず、ただ一言、
「わらわ、芳一が血を引く者に候」
と、そう申しました。
四
後日、拙僧は町の古老に、この「芳一の末裔」なる女のことを尋ねました。が、誰もそんな者は知らぬと申すばかり。
されど、それからでございます。夜毎、琵琶の音が聞こえ、夢とも現ともつかぬうちに、女の声が我が耳元で囁くようになりました。
「拙僧よ、耳を貸せ……わらわが語らん、壇ノ浦の本当の話を……」
拙僧は、次第に正気を失ってゆきました。昼間の読経の最中にも、彼女の声が聞こえてくるのです。
「安徳天皇は、沈まずにおわしました……今も海の底に、玉座を保たせ給ふ」
「壇ノ浦は、終わっておらぬのじゃ……まだ続いておる……お主も、参れ……」
そのうち、私の耳は、他の者の声を受け付けぬようになりました。弟子が話しかけても、鐘が鳴っても、ただ女の琵琶の音しか聞こえぬのです。
そして、ある夜──拙僧はついに、女と共に、池の中へと身を投げました。
いや、正確には「そのような幻を見た」と申すべきかも知れませぬ。なにせ、翌朝、私は濡れた衣を着たまま、池の畔に倒れていたのですから。
それ以来──
拙僧の耳は、消え失せました。
五
今、こうして語るも、愚かしいこととは存じております。
が、これは決して、ただの夢想ではござらぬ。なにとなれば、拙僧の耳は、実際に跡形もなく、顔の側面には、なめらかな皮膚があるばかり。医師に見せても、「これは生まれつきの無耳である」と首を傾げるのみ。
されど拙僧は知っております。
これは、芳一の末裔──女の「供物」となった証なのだと。
今も夜毎、夢の中に彼女は現れます。そして、囁きます。
「さあ、壇ノ浦へ……お主の琵琶の音を、天皇に捧げよ……」
果たして、私は芳一の再来であったのか、それともただの妄想に取り憑かれた愚僧であったのか──それは、読者諸賢に委ねることでございましょう。
六(附記)
その後、拙僧の姿を見た者は、誰もおりませぬ。ただ、寺の池の辺りには、ときおり、琵琶の音が流れるとか。あるいは、風の鳴る音にすぎぬのかも知れませぬが──。
いずれにせよ、耳を澄まさぬことです。芳一の声は、今もこの世に響いているのですから。
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Q 芥川龍之介の文体や発想、構成、文章センスを真似ながら、日本の古典文学の説話を元ネタにした5000字程度の小説を執筆してください
ChatGPTによる生成
(承知しました。以下に、芥川龍之介の文体・構成・発想を模倣しつつ、日本の古典文学、特に『今昔物語集』や『宇治拾遺物語』を下敷きにした**創作小説(約5000字)**をお届けします。題して──)
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