2025年5月26日月曜日

忌み村の鬼女  横溝GP史

 

忌(い)み村(むら)の鬼女(きじょ)

 昭和三十年の晩秋、私は東京から遠く離れた山間(やまあい)の村を訪れた。名前を「忌み村(いみむら)」という。古びた地図に辛うじて記されたその村は、鉄道の終着駅からさらにバスで三時間、そこから徒歩で一里以上、まるで時代に取り残されたかのような場所にあった。

 目的は、大学時代の恩師である民俗学者・桐谷博士の遺稿を受け取りに行くことだった。博士はこの村に入り、地元に伝わる「鬼女伝説」の調査を行っていたが、三ヶ月前、謎の死を遂げた。死因は心臓発作とされたが、遺体は恐怖に歪んだ形相で発見されており、博士の弟子である私は、遺品の整理を兼ねて現地へ赴いたのだった。

 村に着くと、どこか異様な空気が漂っていた。空は低く垂れこめ、枯れ葉の舞う山道には人影がない。道端には注連縄(しめなわ)を巻かれた祠(ほこら)がいくつも並び、まるで何かを封じ込めているかのようだった。

 村の中心にある庄屋屋敷のような古い家屋に泊まる手はずになっていた。迎えてくれたのは、村の世話役を務める老女・斎藤タエだった。

「先生のことは、皆、よう憶えております。よくまあ、あんな話に深入りされたもんです……あの方は、鬼女さまの祟(たた)りを知らなんだ」

 タエの語る「鬼女さま」とは、この村に伝わる恐るべき伝説の主である。曰く、百年前、庄屋の家に嫁いだ娘が、嫉妬と憎悪から義理の娘を井戸に突き落とし、その罪を隠蔽するため次々と村人を口封じに殺した。しかしその後、発覚を恐れた村人たちによって逆に生き埋めにされ、死の直前に「恨みの血は、子々孫々に至るまで流れ続ける」と呪いをかけたという。

 以来、鬼女の祟りは現代まで続き、ある周期で村人が怪死するというのだ。

 博士が残した遺稿は、仮綴じのノート数冊だった。そこには、伝説の裏付けを取るための取材メモや系図、過去の事件の記録が詳細に書かれていた。読み進めるうち、あることに気づいた。鬼女伝説の発端となった「義理の娘」は、実は庄屋の嫡子と先妻の娘であり、現在の村の有力者である間宮家の血筋に連なっていた。

 さらに、博士のメモにはこんな一節があった。

 ――間宮家の娘は今も鬼女の血を引いている。目の奥に、同じ「狂気の炎」が灯っていた。私がそれを知ったとき、恐怖が背筋を這(は)い上った――

 私は背筋に冷たい汗が流れるのを感じた。博士が命を落としたのは、この「狂気」に触れたからではないか。

 翌日、私は間宮家を訪れた。迎えてくれたのは、美しいがどこか影のある女性だった。名を間宮凛子といった。年は三十を越えていようか。博士のことを尋ねると、彼女はうっすらと微笑を浮かべた。

「先生は、興味深い方でした。けれど、古い因縁に深入りなさるには、少しばかり、純粋すぎたように思いますわ」

 その言い草に、私は寒気を覚えた。部屋の隅には、古い桐の箱が置かれていた。ふと視線を向けると、凛子が目を細めた。

「ご覧になります? あれは、鬼女さまの髪と爪を納めたものですのよ」

 私はゾッとした。箱の中には確かに、束ねられた黒髪と茶色く変色した爪が納められていた。異様なほど長いその髪は、かすかに生臭い匂いを放っていた。

 その夜、宿に戻った私は、博士のノートの余白に挟まれていた一通の手紙を見つけた。封筒には「万一のときは、これを読まれたし」と記されていた。

 手紙の内容は、博士が間宮凛子の正体に気づいたこと、そして彼女が「鬼女の血」の証として村のある秘密を守っていることを記していた。

 ――村の旧井戸の底には、まだ何かが眠っている。あれが目覚めれば、忌み村は再び、血に染まるであろう。

 私は居ても立ってもいられず、懐中電灯を手に村はずれの旧井戸へ向かった。竹藪の奥、苔むした石垣に囲まれた井戸は、既に封鎖されていたが、何者かの手で最近こじ開けられた跡があった。

 その時、背後で乾いた音がした。振り返ると、凛子が立っていた。月明かりに照らされた彼女の顔は、まるで別人のように歪んでいた。

「先生も……あなたも……鬼女の血を恐れるのですね。でも、それは私の中にあるもの。抗いようのない宿命なのです」

 凛子は手に持った短剣を振りかざし、私に迫ってきた。私は咄嗟に避け、井戸の縁に彼女を突き飛ばしてしまった。

 凛子の身体は、吸い込まれるようにして闇の中へと消えていった。

 翌朝、村は騒然としていたが、凛子の姿はどこにもなかった。井戸も封鎖され、私は警察に事の顛末を話した。だが、凛子の行方も、鬼女伝説の証拠も、何一つ見つからなかった。

 博士の遺稿と共に東京へ戻った私は、忌み村の調査結果を論文としてまとめたが、公表には踏み切れなかった。あの井戸の底で、私は確かに「何か」を見た気がしたからだ。凛子が落ちるその瞬間、底から伸びた白く長い手が、彼女を抱き留めたように見えた。

 鬼女の血は絶えたのか、それとも、今もどこかで蠢いているのか。

 答えは、闇の中に沈んだままだ。



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Q 横溝正史のような、因習にまみれたおどろおどろしいミステリーを、短編小説として書いてください。横溝正史の世界観を踏まえたものが望ましい。5000字程度でお願いします


ChatGPTによる生成



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