2025年6月8日日曜日

最後の配信

 

 都心から少し離れた郊外の団地、そこで暮らす大学生の彩花は、最近、奇妙なことに悩まされていた。彼女は趣味で動画配信をしていた。ゲーム実況や雑談、たまにメイク動画をアップする程度の小さなチャンネルだったが、熱心なファンが数十人いて、毎晩の配信が日課になっていた。

問題は、2週間ほど前から始まった。配信中に、画面の隅に映る「何か」が気になり始めたのだ。最初は気のせいだと思った。古い団地の部屋は薄暗く、照明がチラつくこともある。だが、視聴者からのコメントがそれを否定した。

「彩花ちゃん、画面の右上に何かいるよ?」 「めっちゃ動いてる! あれ何?」

アーカイブを確認すると、確かにそこにはぼんやりとした影が映っていた。人の形とも、動物ともつかない、黒い靄のようなもの。彩花は怖くなったが、配信をやめる気にはなれなかった。視聴者数は少しずつ増え、コメント欄は「ホラー要素最高!」「ガチで怖いんだけど!」と盛り上がっていた。彩花自身も、どこかで「これもネタになる」と割り切っていた。

ある夜、いつものように配信を始めた。ゲームを起動し、軽快に喋りながら視聴者とやりとりする。だが、30分ほど経った頃、コメント欄が急に静かになった。普段なら「草」「やばいw」と賑やかなのに、誰も何も書かない。彩花は不思議に思いつつ、ゲーム画面に集中した。

突然、画面がフリーズした。モニターに映るのは、ゲームのキャラではなく、彩花自身の部屋。カメラが勝手に切り替わったのだ。だが、映っているのは彩花の背後――部屋の隅に、黒い影が立っていた。細長く、頭が異様に大きい。彩花は振り返ったが、そこには何もない。モニターだけに映る影。心臓がバクバクと鳴った。

「な、なにこれ? やめてよ、誰かイタズラしないで!」彩花は笑いものぞにしようとしたが、声が震えた。コメント欄は依然として沈黙。いや、違った。一つのコメントが、ゆっくりと流れた。

「みてるよ」

その瞬間、彩花のスマホが鳴った。着信画面には「不明」と表示されている。怖気づきながらも、配信を続けなければという義務感から、通話ボタンを押した。

「…もしもし?」声が震える。

電話の向こうから、低い、ざらついた声が聞こえた。「彩花、なんで見ちゃったの?」

背筋が凍った。声は、彩花の名前を確かに呼んだ。配信で使っているハンドルネーム「アヤカ」ではなく、本名の「彩花」を。慌てて電話を切り、配信を終了しようとしたが、マウスが動かない。キーボードも反応しない。画面には、黒い影が徐々に近づいてくる。カメラの映像の中で、影の手が彩花の肩に伸びる。

「やめて! やめて!」彩花は叫び、モニターの電源を無理やり切った。部屋は暗闇に包まれた。静寂の中、背後でかすかな音がした。床がきしむ音。ゆっくり、近づいてくる。

彩花はスマホのライトを点け、部屋を見回した。誰もいない。だが、壁に奇妙なものが目に入った。配信で使っていたカメラのレンズに、小さな文字が彫られている。「見ルナ」と。彩花はそのカメラを数年前に中古で買ったものだった。こんな文字、見た覚えはない。

震える手でカメラを手に取り、レンズを覗き込んだ。すると、レンズの奥に、黒い影が映った。彩花の顔のすぐ後ろに、笑っているような、歪んだ顔が。悲鳴を上げ、カメラを床に叩きつけた。プラスチックが割れる音が響く。

その夜、彩花は眠れなかった。電気を点けっぱなしにし、布団をかぶって震えていた。翌朝、恐る恐るパソコンを起動すると、昨夜の配信アーカイブが自動的にアップロードされていた。自分で終了したはずなのに。コメント欄には、ただ一つのコメント。

「次はもっと近くで見るよ」

彩花は配信をやめる決意をした。カメラを捨て、団地の管理人に相談したが、「そんな影なんて見たことないよ」と笑われた。だが、不思議なことに、視聴者数は減るどころか増えていった。アーカイブを見返すと、彩花がモニターを切った後も、映像は続いていた。暗闇の中、黒い影がカメラに近づき、レンズに顔を寄せる。目がない。口だけが、大きく裂けている。

彩花は引っ越しを決めた。実家に戻り、ネットからも距離を置こうとした。だが、引っ越し前日の夜、事件が起きた。荷造りを終え、疲れ果ててベッドに横になると、枕元のスマホが勝手に光った。画面には、ライブ配信の通知。「アヤカの部屋:ただいま配信中!」

彩花は配信なんてしていない。なのに、画面には自分の部屋が映っている。ベッドに横たわる自分自身が。カメラアングルは、天井から見下ろすような視点。彩花は天井を見上げたが、そこには何もない。だが、スマホの画面では、黒い影が天井を這い、ゆっくりと彩花の顔に近づいてくる。

「やめて…お願い…」彩花は泣きながらスマホを投げた。だが、画面は消えない。部屋の照明がチカチカと点滅し、温度が急に下がった。息が白くなる。背後で、床がきしむ音。振り返ると、部屋の隅に、影が立っていた。モニターやカメラの中ではなく、目の前に。

「みてるよ」

影の口が動いた。声は、彩花のスマホから、スピーカーから、頭の中から、同時に響いた。彩花は悲鳴を上げ、部屋を飛び出した。団地の廊下を走り、エレベーターに飛び乗った。だが、エレベーターの扉が閉まる瞬間、鏡に映ったのは、彩花の後ろに立つ影だった。


彩花の配信チャンネルは、今も更新されている。彼女が引っ越した後、誰もあの団地の部屋に入居していないというのに、毎晩、決まった時間に配信が始まる。映像には、誰もいない部屋が映っている。だが、よく見ると、画面の隅に、黒い影が揺れている。コメント欄はいつも一つだけ。

「みてるよ」

視聴者数は増え続け、誰もその配信を止められない。彩花の行方は、誰も知らない。


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Q 八尺様 コトリバコ ヤマノケ トイレの花子さん きさらぎ駅 のような現代的なホラー短編小説を3000字前後で書いてください


Grokによる生成

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